1/03/2016

シンガポールの交通事情

 前号までに、シンガポールは気候が穏やかで一定で地震もなく、異文化を受け入れる体制が整っており、生活がとてもしやすい国であることをご紹介してきました。今回はこの国の交通事情について、書かせていただこうと思います。

 自動車が高い

 シンガポールの道路事情は、自動車は日本と同じ左側通行で、車も日本と同じ右ハンドルです。つまり日本からの赴任者には運転しやすい条件と言えます。交通法規も、これといった大きな違いは無いようですが、駐車禁止表示やバス専用レーンなど、知らずにいると反則金を取られることになりますので、表示ルールはきちんと理解してから運転されることをお勧めします。

 シンガポールは小さな国ですので、道路の混雑緩和のために、いろいろな政策がとられています。そのひとつはほぼ100%という関税の高さですが、もうひとつは新車を購入する際に必要な「車両購入権」COE(Certificate of Entitlement)です。インターネットによる入札形式で、車を買うための権利金額が決定されますが、種類としてはAタイプ~Eタイプに分かれています。

 Aタイプ:排気量が1600cc以下で、かつエンジン出力97kW(130馬力)以下の車
 Bタイプ:排気量が1600cc以上、またはエンジン出力97kW(130馬力)以上の車
 Cタイプ:トラック・バスなどの商用車
 Dタイプ:自動二輪車
 Eタイプ:制限無し

 入札ですので金額は毎回異なりますが、2016/4月時点の金額(および為替レート)では、Aタイプで5万6千Sドル、約450万円にもなります。高級車のBタイプですともう少し高くなりますが、約80万円ほどの差しかありません。このため、シンガポールで売られている日本車で、かつて国民的大衆車と呼ばれたT社のファミリーセダンタイプ(Aタイプのカテゴリー)が約830万円という値段になります。ではBタイプはどうかと言うと、ドイツのM-B社のC180 Sportが約1650万円です。その差は「800万円もある」ととるか、「2倍の金額でドイツ車が買える」ととるか。どちらにしても、私は購入する予定も予算もありませんが、いざ買うとなったら相当悩むのではないかと、シンガポール人の髪の毛が抜けるのことを心配してしまいます。

 2015年末の民間自動車登録台数ですが、57万5千台で前年よりも4.1%減少したそうです。「車に依存しない国」づくりに向け、2018年までの増加率を0.25%とするべく、上記のCOEを用いて新車の登録台数をコントロールしているようです。将来に向けた国政を、きちんと実施している政府といえます。

 ETCが全車標準装備

 交通渋滞を減らすための政策は、自動車の取得が高額なだけではありません。交通量の多い都市部の道路に侵入する際、ERP(Electric Road Pricing)と書かれたゲートをくぐると、通行料金が自動的に課金されます。このため、すべての車、バイクにはIU(In Vehicle Unit 日本で言うETC読取装置)が装備されています。通行料は曜日、時間帯、車種により細かく設定されており、交通量の増える朝晩は料金が高めに設定されています。実際の渋滞状況に応じて、3ヶ月ごとに見直されているようで、渋滞が激しくなっていれば料金を上げ、解消していれば下げることもあるようです。このため週末の日中は、無料設定のゲートが多いように思います。
通行料金ゲート(ERP) 時間と車種ごとに自動課金されます
運転者は事前にお金をチャージしたプリペイカードを、読み取り機に入れた状態で運転します。万一カードの差込が不十分だったり、残高不足の状態でERPを通過してしまうと、写真を撮られ、後で反則金が請求される仕組みですので、よくよく気をつけておかねばなりません。

 つまるところ、自動車を買うのも都心を通行するのも、国がお金を徴収することで渋滞地獄をコントロールしているわけで、この国の自動車乗りはお金持ちに限られてゆくのではないでしょうか。実際に週末夜のオーチャード通りでは、なん十台ものフェラーリが、爆音をとどろかせて集団走行している場面にもでくわしましたし、ベントレーやマセッラッティといった高級車も、街中でよく見かけます。52台のカウンタックが集合している動画も見たことがあります。

 これらの贅沢車種も、COEのBタイプで購入できるのだとしたら、もうひとつかふたつ排気量の大きいカテゴリーを増やせば、政府の収入がさらに増えると思うのは、一般市民の僻みでしょうか。

 このプリペイカードとIUは、通行料金のほかに、駐車料金の支払いにも使用できます。駐車場入り口に車を近づけると、ピッと音が鳴りゲートがあがり、駐車時間に応じた金額が出口で課金されます。どこの駐車場でも一枚のカードで支払いが可能で、実際に使ってみると実に便利な合理的なシステムです。駐車料金は場所によりまちまちですが、1分単位で単価が決まっており、カード支払いで小銭が不要なのが助かります。
すぐには理解できない料金表 3分、6分を単位とすれば、なるほど
カード支払いが便利な典型です
駐車場の空き状態の掲示板があり、駐車場を探して走り回ることが減る、かな?

このようなカード清算の駐車場と、駐車券を使用するチケットパーキングもあるのですが、こちらを説明するには紙面が少なすぎますのでシンガポールにお越しの際に、路上駐車している車のダッシュボードに散らかる駐車券に注目してみてください。自動車の量を規制しているシンガポールとはいえ、駐車場事情は東京都内と比較すると格段に良好と言えますね。

 公共交通網の充実

 自動車に依存しない社会を作るためには、当然それに変わる移動手段を提供しなければ「人の移動」が行われず、必然的に「経済の発展」は望めません。シンガポールで感じることのひとつが、バスの多さです。数量的には当然都内も多いのですが、2階建てのバス、2両連結のバスなどが頻繁に走っています。バス網を充実したおかげで、路線が複雑でどのバスに乗ればよいのかわかりにくく、乗ったら乗ったで停留所の案内が無いため、降りる場所は自己責任という問題はありますが、それらをサポートするスマホアプリも多種あり、慣れてしまえば便利でかつ非常に経済的です。短距離ならば30円、40円で移動できます。
路線は全て番号表示。
降りる場所は、アナウンスも掲示板もないので、完全に自己責任

ここでもバス料金はカードで支払います。車のカードは基本的にIUに入れっぱなしですので、別のez linkというsuicaやpassmoのようなカードを利用しています。どの路線バスに乗っても、MRTと呼ばれる電車に乗っても、1枚のカードで支払い可能になのはうれしい限りです。

さて電車の方は、MRT(Mass Rapid Transit)という公共交通機関が主な電車路線です。2016年初現在5つの路線があり、名称も
・ 東西線 EWライン 緑色で表示
・ 南北線 NSライン 赤色で表示
・ 北東線 NEライン 紫色で表示
・ ダウンタウン線 DTライン 青色で表示
・ 環状線 CCライン 黄色で表示
といたってシンプル。色分けも統一されており間違いにくくなっています。東京の地下鉄は複雑すぎの感がありますよね。

 2015年末にダウンタウン線の二期工事部分が開通し、島の中西部からシティーへのアクセスが格段に良くなりました。三期工事部分はシティーから西へ進み、2017年開業予定ということです。どの路線もホームには安全のための柵または壁があり、電車が到着してドアがあくまで、ホーム側のドアが開かない構造で、安全が図られています。東京都内でも順次改造されているようですが、早期の設置を進めてほしいものです。

 将来のために

 社員の大半はバスかMRT、またはそれらの乗り継ぎで通勤しています。このように公共交通機関を整え、安い料金で提供することは、自家用車の利用を少なくしたいという目的と合致しています。驚いたことに、公共交通機関が不便な場合は、通勤にタクシーを利用することも認められており、レシートの提出で通勤費を請求できるのです。また2016年の2月から、最終日曜日の朝、中心部の一部区間を自動車通行止めにして、ジョギングやオープンマーケットに開放する試みも始まりました。それもこれも、自家用車を利用するよりは国の将来や子孫たちには未来を残せるということなのでしょう。

 前出の通行料金システムも次世代システムを開発中で、道路上の各地にIU読み取り機を設置し、車の走行距離による課金も検討しているということです。ますますバス、タクシーとスーパーカーしかシンガポールの道路に残らなくなりそうですが、それもありかもしれませんね。

 明快な目標を設定しその実現に向けた政策を行うことは、当たり前のことではあるのですが、それができていない国も、多いですよね。

0 件のコメント:

コメントを投稿